2008年05月25日

「堕落」(高橋和巳)




自慢でも何でもないが、
僕は大学1年の4月から通学(札幌ー小樽)の間に本を読もうと決めて、新潮文庫を片っ端から買って読みふけりました。

自分は速読ができる人間でもありませんでしたが、
何とか半年で100冊を読むことができました。

それも1人1冊と決めて読んでの100冊だからそれなりにいろんな文体に触れることができた。

今の自分が、商売をしているわけでもないけど、趣味で文章を書く時、下地になっているのは間違いなく、あの当時の乱読だったと思う。(もっとも、読んだ片っ端から忘れていくのもたいしたものだが)

しかし、そんな中でも、読もう読もうと想いながら一番文学を吸収できるあの時期に読めなかった作家が何人かいた。

直木三十五、池波正太郎、斉藤栄、中里介山、大西巨人、五味川順平、川崎長太郎…
理由はいろいろありますよ。作品が長すぎた。文庫が出てなかった。出版社が潰れた。偏見があって通俗小説は後回しにした。などなど…。

そんな中で、なぜ僕は高橋和巳を読まなかったのか?
埴谷雄高や井上光晴、野間宏、椎名麟三とかは読んでいたのに。
この人と小田実については読んでいない。
当時の事を考えると、多分どれを読もうか考えすぎていたのが原因だったのだろう。
「邪宗門」「黄昏の橋」「悲の器」「憂鬱なる党派」「我が心は石にあらず」
どれもこれも、当時の憂鬱な学生だった自分にはその作品群は魅力的だった。特にその題名のセンスは素晴らしかった…そして、結局選びきれなかったのだった。

あれから30年…、ようやく手に取った高橋作品は「堕落」だった。
かつて大陸に幻の国を造る事に奔走し、理想に敗れ、戦後は混血児を育てる仕事に就き、表彰される青木周三。しかし、その裏では彼自身、「堕ちていく」事への願望が止められなかった…。

読めてよかったと思った。
そして、やはり、若いうちに読むべきだったと思った
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2008年05月23日

真実は墓場まで〜名探偵ホームズDボスコム渓谷の惨劇

ホームズとワトソンは警察ではありません。

探偵が求めるものは事件の裏側にある真実です。
従って、その真実によっては罰を下さないこともあるのです。

そういう事件がホームズ物語には結構あります。
『悪魔の足』とか『チャールズ・オーガスタス・ミルバートン』
『ブルー・カーバンクル(青いガーネット)』
『アベ農園』などです。
これはそんな事件の中の一つであります。

ボスコム沼のほとりでチャールズ・マッカーシーという男が殺害された。
ボスコム谷一の大地主はオーストラリアで金を作って帰ってきたヘンリー・ターナーという男で、チャールズ・マッカーシーはやはりオーストラリア帰りの男で、ターナーの土地の一部を借りて住んでいた。

ホームズがワトソンに事件の説明をする。
「そして事件のほうだ。月曜日の午後3時、マッカーシーは人に会う大切な用事があるから、とボスコム沼に向った。そしてマッカーシーのあとを息子のジェームズが鉄砲を片手に追いかけていったのを目撃されている。そしてボスコム沼でこの二人が激しく言い争っているのを目撃されている。そしてジェームズは父親が死んでいると沼の番人に申し出た。父親は頭を鈍器のようなもので殴られていたが、死体から数歩のところに息子の猟銃がころがってあり、さもその台尻で殴り殺したといわんばかりだった。そして息子はすぐに逮捕されたわけだ」

しかし裁判でのジェームズは殺害は否定するものの、口論の原因を述べる事を固く拒んでいると言う。
ターナーの娘アリスが到着した二人を迎えた。
彼女は、ホームズに父子の言い争いの理由を打ち明け、ジェームズの人柄から彼は絶対に殺人など犯していないと訴える。

「ジェームスは虫一人殺せない優しい男性です。あの人がお父様と口論したのは私と関係のあることなので、検察官に言わなかったのです」

「どう関係があるのですか」

「お父様のマッカーシーさんは私とジェームスの結婚を強く望んでいました。ジェームスはまだ若いのでお父様をよくそのことで口論していたのです」

「あなたのお父様はどうなのですか」

「父も反対でした。賛成なのはマッカーシーさんだけです」

ターナーとマッカーシーは、昔ヴィクトリア州の鉱山で働いていたことをホームズは知る。そして、ターナーはマッカーシーのことをいろいろ援助していた事も知る。

ホームズの凄いのはここからだが、
彼は現場の周りを徹底的に調べ周り、森の中から一つの石を拾う。
そして、これが凶器である事をレストレードに教え、犯人の特徴まで割り出すのだ。

「レストレード君。これが凶器です」

「どうしてわかります」

「石の下の草が生えていましたよ。そこに置いてから2,3日しかならないわけです」

「すると加害者は」

「背の高い左利きの男で、右足がびっこで厚底の靴をはき、灰色の外套を着て、インド産の葉巻のパイプを使っています」

なんで分かるの?

このほかにホームズの興味を惹いた事柄が二つあった。
捕まったジェームズが言った言葉だ。
ジェームズが聞いたのは「クーイ」という呼び声で、普段二人の間で呼び合う合図だったと言う。そして死ぬ間際に言った「ネズミ」がなんとかという言葉だ。
「クーイ」とは豪州人の間で使われる呼び声で、彼はオーストラリアにいた人間と会うつもりだったのだと言う。
そして、「ネズミ(a rat)」とはオーストラリアのバララット(BALLARAT)鉱山の事だったと見抜く。

そんなホームズのところにターナー老人がやってくる。
そして真実を話す。
ターナーはオーストラリアで強盗をしていた。「バララットの黒ジャック」ターナーの仲間がある日襲撃した金塊護送隊の荷馬車の御者がマッカーシーだったのだ。
堅気になってイギリスに戻ったターナーの前に秘密を知るマッカーシーが現れた。その後、ターナーは弱みを握る彼の言いなりになる。

やがて、マッカーシーは自分の息子をターナーの娘と結婚させて財産の乗っ取る事を計画したが、ターナーは断る。
そしてあの日、二人はその問題を話し合うために向かうが、偶然マッカーシーが息子と口論する場を見、娘を罵るのを聞き逆上する。
彼はジェームズが居なくなった隙にマッカーシーを殺す。

真実を知ったホームズはジェームスが死刑の宣告を受けない限り、この告白を口外しないと約束する。

ジェームズは巡回裁判で無罪放免となる。
ターナー老人は告白後、死ぬ。
そしてアリスとジェームスは結婚した。

こんな筋です。

このホームズの措置を考えるかは、あなた次第です。
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2008年05月21日

源氏物語D(夕顔)その2

さて、ようやく「夕顔」の段、本題です。

「六条わたりの御忍び歩きのころ、内裏よりまかでたまふ中宿に、大弐の乳母のいたくわづらひて尼になりにける、とぶらはむとて、五条なる家尋ねておはしたり」

光源氏が六条御息所のところに通う途中、
丁度大弍の乳母がひどく病んで尼になっていたのを、それを見舞おうとして、五条にある家を尋ねていきました。

大弍の乳母は、源氏の乳母の一人で惟光の母親です。

大弍とは従四位下の官僚で、大弍の乳母はその人の妻です。

隣家の板垣に白い花が咲いている。

「あれは何と言う花か?」と尋ねると、
「あの白く咲いている花を、夕顔と申します。花の名は人並のようでいて、このような賤しい垣根に咲くのでございます」と言う。

※原文では「遠方人に物申す」と源氏は言うわけですが、
どうして「何と言う花か?」という意味になるのか?
出典によると、古今集に「うち渡す遠方人に物申す我そのそこに白く咲けるは何の花ぞも」という歌があるそうで、
そこから「この白い花は何の花か?」となるのです。

すると、その隣家の女性は白い扇に花を乗せて持たせる。
もちろん、惟光が取り次ぐのだ。
昔の事、直接そんなやり取りはできないのです。

まどろっこしいですな。

さて、大弍の乳母は源氏の来訪を喜んだが、すっかり気弱になってしまって、心細いのかさめざめと泣くのです。
すると源氏は、自分が幼い頃、母親に死なれてからは、養育する人はいたけど、親しく甘えられる人は、他にいなかったよとシミジミ語ったそうな。帰ろうとして、惟光から先程の扇を受け取ると、
「当て推量に貴方さま(源氏)でしょうかと思っています 白露の光を加えて美しい夕顔の花(のような人)は」

源氏はたちまち心惹かれる。

「この西の家には誰が住んでいるのか?」と惟光に聞くが
ここ5・6日この家に居たが看病で忙しかったのでわからなかったという。当たり前だ。
しばらくして調べた惟光によると、曰くありげな若い女主人がいるという。

かつて「雨夜の品定め」で言う中の品(中流)の女である。
源氏はますます心惹かれるのです。
待ちきれなくなった源氏は覆面で顔を隠し、身なりも変えると、
お忍びで女の家を訪ねた。
すると、女(夕顔の君)はそんな源氏を受け入れる。

女の感じは、驚くほどに従順でおっとりとしていて、物事に思慮深く慎重な方面は少なく、一途に子供っぽいようでありながら、男女の仲を知らないでもない。たいして高い身分ではあるまいと思うが、どこにひどくこうまで心惹かれるのだろうか、もう源氏は止まらない。

彼はやがてこの家に通うようになる。病気だね。ここまで来たら
当然、六条御息所のところに通う回数は減る。

8月15日の夜のことです。
この日もまた女のところに通う源氏だが、
ここは庶民の住むところ、近所の家で人々の会話まで聞こえる。
これでは落ち着かないと、彼は女を連れ出す。
連れ込んだ先、源氏の別荘である河原院は訪れる人も少なく、荒れていて気味の悪いところでした。
女は不安がります。
ここで初めて源氏は覆面を取り正体を明かします。
(それまで顔を見せずに付き合ってたんだね。オドロキです。)
「夕露に紐とく花は玉鉾のたよりに見えし縁にこそありけれ 露の光やいかに」

「夕べの露を待って花開いて顔をお見せするのは 道で出逢った縁からなのですよ 露の光はどうですか」と言う意味だそうです。

すると、この女性、たいしたものである。源氏の姿を見ても、

「光ありと見し夕顔のうは露は たそかれ時のそら目なりけり」
(「光輝いていると見ました夕顔の上露はたそがれ時の見間違いでした」)
と言いかえす。

ますます、不思議な気がして心惹かれる源氏です。
ここでもお互いを名乗りあうわけでもありません。

そんな二人の逢瀬です。

ところが、夜半になって少し寝入った頃
風が強くなり戸がガタガタと鳴り出すようになりました。

ふと光源氏が気が付くと、隣りに横になっている女(夕顔)の枕元に女が現れ、『私という女が居ますのに、こんなところまで来て…』と言う。
はっとして起き上がった源氏が夕顔を見ると返事もなくヘナヘナとしている。これはまずい。

明かりが消えて真の闇です。

「私がいるから大丈夫」と言って刀を抜いて魔よけとするが、
結局夕顔はその物の怪のため、息を引き取ってしまいます。

悲しみにくれたまま源氏は惟光を呼びます。

わけを知った惟光は「お任せください」といい、
女の亡骸を清水の尼寺に人知れず運びます。
それも秘密のためむしろに包んで運ぶのです。
そのむしろから長い髪の毛がこぼれているのが悲しみを誘う。
帝の子どもで殿上人もある光源氏が、死んだ女と関わりがある事が知れてはまずい。

一旦は二条院の自宅に帰ったものの、落ち着かない源氏、闇にまぎれて馬を走らせて女の眠る寺に向かったのだが、惟光は帰れと追い返す。

泣く泣く帰るが何度も馬から落ちそうになり、ようやくのことで二条の自宅に帰る。

こうして、源氏のひと夏の恋は思いがけない形で終わってしまう。

その悲しみのせいでもないだろうが、源氏は「おこり」を病んで長く床についてしまった。
「おこり」とは今でいうマラリヤなのだそうで、重病だ。
まあ、物の怪とは無関係だろうが、散々な結末である。

後でわかったことは、夕顔が源氏の親友である頭の中将が「常夏の女」と呼んだ愛人だった事を知った。彼女はそのために中将の正妻に憎まれたため、あの家にかくまっていたらしい。
彼女と中央の間には3歳の姫君がいて、のちに玉蔓と呼ばれます。

夕顔は源氏の中でも、今にも通じる魅力的な女性の一人です。

しかし、この物の怪はいったい何か?
怖いですね。

光源氏17歳、夕顔20歳の事です。
posted by とたけけ at 18:07| Comment(0) | TrackBack(1) | 源氏物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月03日

源氏物語C(夕顔)その1

今は、もうやらないけど、月曜夜のsmap×smapの中で、
「源氏物語」をネタにしてコントやゲームをやってなかったっけ?
ローラースケートを履いて登場する光源氏を木村拓哉がやっていて
頭の中将が稲垣吾郎、藤原惟光が草g 剛だったかな?

余計な事はさておいて、
この惟光という人、初期の源氏物語にはよく出てきます。
身分の違いがありますが、いわゆる従者として、
よく光源氏に付き従っております。
友人であり部下であり、ボディガードとでも言うんでしょうかね?
さて、この惟光も活躍する『夕顔』の段

「六条わたりの御忍び歩きのころ、内裏よりまかでたまふ中宿に、大弐の乳母のいたくわづらひて尼になりにける、とぶらはむとて、五条なる家尋ねておはしたり」と始まります。

六条わたりのお忍び歩きとあるのは、
当時、光源氏には六条御息所という東宮(皇太子)の元妃という、
物凄い高貴な愛人がおりました。
不思議なものですな。
光の正妻は葵の上=左大臣の長女でした。
この葵の上、とてもプライドが高い人なんです。
もちろん、当時の貴族のお姫様ですから、
慎み深く、頭もいい。美しい。でも気も強い。
しかも当時で4歳年上の姉さん女房です。
こんなお嫁さんがデンとお待ちになってる家庭。
…源氏じゃなくても帰りづらい。
ましてや、この話の時点で源氏は17歳です!!
筆者の17歳なんて、まだ女のオの字も知らなかった。
(今は知ってますけどね)
光は12歳で元服(成人)して当時16歳の葵の上と結婚するんですね。

窮屈だったんでしょうね。
年上のシッカリ者でキレイで頭が良くて…気が強い奥さんが

それでなくても、当時の貴族の男たちは、
あちこちと女性の下に通っていたものなのです。
で、前の章(空蝉)のように、それが他人の妻であってもお構いなし。
結婚そのものが通い婚の次代で、
女性=家は、花のように、常に中心にあったわけです。
男はその周りをブンブン飛び回るハチみたいなもの…例えは少し違うかも知れませんが。

で、六条御息所は皇太子の未亡人、16歳で結婚して娘さん(後に秋好中宮)をもうけ、20歳で死別し、実家に帰って来た源氏にとっては年上のお姉さんです。
またこの人が頭がいい、教養に溢れ、気品も高い…
ね?だんだん足が遠のいてしまうわけなんです。
しかし、通う限りは必ず行かねばなりません。
また、相手の足が遠のくと言う事は、言えからなかなか出られない姫にとっては、寂しく、悔しい話なのでしょう。
しかし、プライドが高い女性は、帰る男にすがりつき、
「早く来て!」と言う事もできない。
自分から「愛してる」と叫べない。

ああ、どんどん横道に逸れていく(苦)
そんな六条御息所の家に足取り重く通っていた頃、
惟光の母親で源氏の乳母でもあった大弐乳母という人をお見舞いに行った事からこの物語は始まるんですね。

長くなったんで、この話はまた次に




posted by とたけけ at 11:02| Comment(2) | TrackBack(0) | 源氏物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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