2009年12月30日

子宮の記憶(藤田 宜永)


子宮の記憶 <ここにあなたがいる> (講談社文庫)

子宮の記憶 <ここにあなたがいる> (講談社文庫)

  • 作者: 藤田 宜永
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/12/15
  • メディア: 文庫




映画にもなったお話。
歯医者を父に持つ裕福な家庭で、何不自由なく暮らしていた17歳の真人は、いつも苛立っていた。

いつも、自分が家族に愛されていないという感覚が彼を悩ませていたのだ。ある日、真人は自分が生後3日である女に誘拐されていた過去を知る。
そして、自分を誘拐した犯人が真鶴に住んでいると突き止め、彼女に会いに行くことを決意する。自分がもし、誘拐されたままだったら…。
自分の居場所を求めて真人は仮名を使い、その女=愛子の働く海の家でバイトとして雇われるのだが…という筋。

詳しく書くとネタバレになるんだろうけど、
この子が、自分を誘拐した「つかの間の母親」に抱いている感情は複雑で、読んでいても「何をしたいのか?何を考えているのか?」わからなかった。
そして、結局最後に思ったのは「何も考えてない」と言う事だった。
美佳というエキセントリックな女性との恋愛も、「何でこんな女性が好きになるんだか」わからなかった。
僕は願い下げだね。自殺してしまう沙代の方が感情移入できる存在だ。

で、一番思ったのは…子宮の記憶というタイトルに関わる
人と人とのつながりを意識させる部分が最後まで感じられなかった。

少なくとも、僕には。

筋としては面白かったけど。
生後3ヶ月で自分を誘拐した女と一緒に暮らす状況って、
もう少し違ったものにならないだろうか?

これ以上はうまく言えません。
ただ、作品そのものに文句をつけているわけじゃないから。
posted by とたけけ at 02:58| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月03日

トゥインクル・ボーイ(乃南アサ)


トゥインクル・ボーイ (新潮文庫)

トゥインクル・ボーイ (新潮文庫)

  • 作者: 乃南 アサ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1997/08
  • メディア: 文庫




・トゥインクル・ボーイ

・三つ編み

・さくら橋

・捨てネコ

・坂の上の家

・青空

・泡

こわい本だった…
子供って、可愛くない。

でも、そう言えば自分が子供の時
世間が望むような子供ではなかったな。
ひょっとしたら、この主人公たちのような子供になった可能性もありうるわけで…。

親に喜んでもらいたくて盗みを働く少年、親を困らせたくて自分の家に火をつける兄弟、戯れに猫にイタズラし、死ぬと床下に埋めていく少年(これは母親の方が怖かったけど)。
子供達の悪意は、ある意味、真っ直ぐで純粋で恐ろしい。

これは解説の通りホラー小説だと思った。

僕の子供は児童教育の学校に通い、保育士か幼稚園教諭になろうとしているわけだが、読ませない方がいいかも知れないな。
posted by とたけけ at 01:26| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 作家な〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月02日

霞町物語(浅田次郎)


霞町物語 (講談社文庫)

霞町物語 (講談社文庫)

  • 作者: 浅田 次郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2000/11
  • メディア: 文庫




浅田次郎の小説は「鉄道員」が最初という話は以前もしたと思います。
「角筈にて」は西田敏行でドラマになったし、「ラブレター」もドラマ化されたっけ。

今回は「霞町物語」
東京と言うところは有機的な町で、刻一刻と生き物のように形を変えて行く。
1年前に公園だったところが、ビルの谷間になったりするし、
大きな百貨店だったところが、何もなくなったりしている。
それはいい事なのか?悪い事なのか?

この霞町という地名はいまだと六本木あたりらしい。
その霞町で青春時代を送る主人公をはじめとした少年達の話。

明治時代の頑固者の雰囲気を持つ江戸っ子の写真家の祖父
元芸者で鉄火肌の美人の祖母
徒弟上がりで祖父に頭の上がらない父
芝居好きで人のいい母
そんな家族の写真館の息子である主人公

勉強は出来る
でも酒もタバコも吸う不良たち

…ぐれているわけではない。
でも、不良っていうんだろうね?
どこかに救いがある良き時代の不良たち。

彼らの服装は「兄貴達から申し送られたとおりに、踊りに行くときはバリっとしたコンテンポラリーのスーツを着、タブカラーのシャツに細身のタイを締め、髪はピカピカのリーゼントで固めていた。」

そんな高校生が女と遊びに青春を過ごすわけだ。
この本の主人公は「時代」だ。
六本木が霞町だった時代。
いずれ無くなってしまう運命の御用写真家という職業。
斜陽化で時代から取り残されてしまう町

浅田さんの目はこの町とこの時代に優しい。

「霞町物語」の明子
「夕暮れ隋道」の真知子
「青い火花」の祖父
「グッバイDrハリー」のドクター・ハリー
「雛の花」の祖母
「遺影」の紳士(祖母の愛人)
「すいばれ」の谷さんなど、浅田さんの目は優しい。
そして、
「卒業写真」、祖父の死をもって物語は終わる。

そう言えばこのシリ−ズの中で、祖父の死は3度ほど出てくる。
各々違う表現で。
この連作を通じた中心人物は主人公と祖父なんだね。

不良の青春物語は、今でもいろいろ本が出て、紹介されている。
「ピカンチ」や「ドロップ」とか、それぞれの懐かしさの味付けで表現され、中には喧嘩もナンパも登場する。

でも、やはり時代が違う。

僕は「ドロップ」ではキュンとはこなかった(苦笑)

文庫本で9ページ目始めと268ページ目に書かれている、
時代の描写が何故か本編よりも胸に残る短編集でした。

ネタばれになるから細かくは書きません。
読んでやってください
posted by とたけけ at 13:43| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 作家あ〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年08月04日

源氏物語F(若紫〜その2)

そう言えば、源氏物語の事書いてなかったなあと、
昔の記事を追いかけてみたら、

前回この源氏物語について書いていたのが、何と2008年8月19日

…ほぼ、1年前。

なおかつ、「若紫」について中途で終わっていたという、
誠に中途半端で申し訳ない状況になってました。

遅ればせながら
誠に遅ればせながら(苦笑)
前回の続きにかかりたいと思います。

「人なくて、つれづれなれば、夕暮のいたう霞みたるに紛れて、かの小柴垣のほどに立ち出でたまふ。人びとは帰したまひて、惟光朝臣と覗きたまへば、ただこの西面にしも、仏据ゑたてまつりて行ふ、尼なりけり。簾すこし上げて、花たてまつるめり。中の柱に寄りゐて、脇息の上に経を置きて、いとなやましげに読みゐたる尼君、ただ人と見えず。四十余ばかりにて、いと白うあてに、痩せたれど、つらつきふくらかに、まみのほど、髪のうつくしげにそがれたる末も、なかなか長きよりもこよなう今めかしきものかなと、あはれに見たまふ。」

現代訳では
「人も居なくて何もすることがない光源氏。夕暮の霞んでいるのに紛れて、あの小柴垣の付近にお立ち出でになる。供は帰してしまい、惟光と件の建物の方を覗いていると、ちょうど西面に仏を安置して勤行している尼がいるのを見つけた。簾を少し上げ、花を供えているようだ。中の柱に寄り掛かかり、脇息の上にお経を置いて、とても大儀そうに読経している尼君は、普通の人とは見えない。四十歳過ぎくらい、とても色白で上品で、痩せてはいるが、頬はふっくらとして、目もとのぐあいや、髪がきれいに切り揃えられている端も、かえって長いのよりも、この上なく新鮮な感じだなあ、と感心して御覧になる」

要は、暇だからぼんやり僧房の方を覗いていたら、
40過ぎくらいの色白の尼君がお経を唱えているのが見えた。
痩せているけど、上品そうだし、髪の毛も長いよりかえって新鮮でいいなあ、と思っているわけだ。

その尼君のいるあたりに小奇麗な女房が2人ほどと童女が出入りして遊んでいるのだが、その中に抜きん出て将来美女になりそうな10歳くらいの1人の童女がいるのが眼に留まる。
「あまた見えつる子どもに似るべうもあらず、いみじく生ひさき見えて、うつくしげなる容貌なり。」
というわけである。

『こいつは将来絶対モノになるぞ。他の子とは素材が違う。』
下世話な例えなら、タレントを発掘するプロデューサーみたいな感じかな?
安室奈美恵を発掘したマキノ雅幸氏、浜崎あゆみの歌の才能を見つけた松浦勝人、オーディションで後藤真希を選んだつんく♂…。

スケールはもちろん、全然違うけど、美人になる才能を見つける嗅覚を源氏は持っていたんだね。

顔つきがとてもかわいらしげで、眉のあたりがほんのりとして、子供っぽく掻き上げた額つきや、髪の生え際は、大変にかわいらしい。「成長して行くさまが楽しみな人だなあ」と、お目がとまりなさる。それと言うのも、「限りなく心を尽くし申し上げている方に、とてもよく似ているので、目が引きつけられるのだ」と、思うにつけても涙が落ちる。

限りなく心を尽く申し上げている方=藤壺に似ているのは当たり前。
彼女は藤壺の姪に当たる女性だったのです。

藤壺も面影を宿す彼女に執心する光源氏は、後見人として引き取って手元で育てたいというが尼君は応じないんですね。
翌日、源氏は帰京します。

すぐに参内し、その後左大臣邸に向かうが、プライドの高い妻、葵はすぐに夫のもとに出てこようとしない。父親(左大臣)に強く促されようやく出てきたものの、源氏にとっては気詰まりなばかりだった。
安らぎのない家庭には男は寄り付きませんわな。

源氏はますます葵から心が離れていく。
そして北山にいる藤壺の姪(若紫)をどうにかして手元に引き取りたいと思うのでした。

結局その後、後見人の尼君が死去すると、この北山の少女を、源氏は半ば誘拐のように自分の屋敷につれてきてしまいます。後に源氏の正妻となる紫の上です。

さて、この「若紫」の段では、この他にとても重要な事件が起きます。
その夏、病気のために藤壺が宿下がり、つまり実家に帰ってくる。
そうなるといてもたってもいられない源氏。
王命婦の手引きでついに2度目の逢瀬となる。
帝の妻と帝の子供。
今だってあってはならない関係です。
互いにあさましく、情けなく哀しい関係です。

また、運悪くこれが当たってしまうんですね。

藤壺、ご懐妊であります。
不義の子供を身ごもってしまいました。
これもまた、後々大問題になってしまうのです。

ハイ、結局はしょってしまった「若紫」の段、
ご勘弁を…。
posted by とたけけ at 18:03| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 源氏物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年07月18日

江戸に遊ぶ12(山本周五郎『やぶからし』)


やぶからし (新潮文庫)

やぶからし (新潮文庫)

  • 作者: 山本 周五郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1982/01
  • メディア: 文庫





小説には面白い小説と面白くない小説の2種類しかない。

こんな事を言ったのは誰だったろう?

昔は、意味も無く、難しい小説をありがたかったりしたものだが、人生も折り返し点を過ぎた今は面白いおと思う本はむさぼり読んでいるといった感じですね。

さて、山本周五郎だが、「青べか物語」は読むのに苦労した気がしたが、「寝ぼけ署長」「赤ひげ診療譚」「さぶ」…みんな読みやすく面白く、時にはやるせないものもあるが、だいたいはすっきりした読後感をくれる。
今回読んだ「やぶからし」は昭和11年から35年くらいにかけての作品集です。

人間が、抗うことのできない運命の中で、逆らうでもなく、ただ流されるわけでもなく、懸命に生きようとする人々の姿がこの小説集には見えてくる。

「入婿十万両」の浅二郎も、「抜打ち獅子兵衛」の左内も、「山だち問答」の玄一郎も、周囲の誤解も委細気にせず自分の道を貫いている。
「やぶからし」のすずや「菊屋敷」の志保は周囲の運命に翻弄され、その運命に流されながら、泣きながら生きていく。

もちろん戦前の作もあるわけで、最初の方の作品をさして軍国主義だ。ご都合主義だと言うは簡単だが、時代の制約の中で人間を描いていった山本さんの優しいまなざしが僕は好きだ。

posted by とたけけ at 08:40| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 作家や〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年07月05日

色闇(山藍紫姫子)


色闇 (角川文庫)

色闇 (角川文庫)

  • 作者: 山藍 紫姫子
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2005/02/25
  • メディア: 文庫




作家の名前は(やまあい しきこ)と読みます。
これもまた、先輩の時代物の蔵書から譲り受けたものなのですが、
相当色合いが変わっています。

早い話がBLもの、耽美ものです。
このブログを読む方々が、この種の小説を読むのかわかりませんが、
僕は読んだので、紹介するわけです。

これは「大江戸捕り物秘帖 狗−いぬ−」というシリーズ?ものです。
主人公は月弥という美貌の陰間。
陰間とは、売春婦の男版と言ったら簡単ですが、
江戸時代には陰間茶屋という場所もあり、
戦国時代の稚児じゃないが、男色も普通に存在していたようです。
ホモ・セクシャルと言うより、両刀使いというのかな?
男と女では味わえない、男と男の間だけにある性の快楽があったという事です。

さて、この月弥、ただの陰間ではない。
元は江戸中を震え上がらせた犬神の早太郎という盗賊一味の二代目
早太郎一味を捕らえ、壊滅させたのが、後に月弥の「飼い主」になる
牙神左衛門之丞尚照という、元火付盗賊改長官。
長官時代に妻子を人質に取られ脅迫をい受けたのを退けたために、
妻を陵辱の上殺され、息子は行方不明となった牙神は職を辞し、
今は市内見回りといった閑職に就く。
長官時代の鋭さは影を潜め、腑抜けの昼行灯といった様子だが、
裏では若年寄の篠井長門守の命を受け、法で裁けぬ悪を取り締まる役目に就いているのだ。
月弥は牙神の色小姓であるとともに、彼の密偵(狗)となって働くのである。

これが大まかな筋立てなんだけど、中身は、まあ、男と男のめくるめく官能の世界ってやつですな。

牙神の後任に就いた中郷主膳は切れ者として評判を得ていたが、
その裏では、盗賊を操り、押し込みを働かせたうえに家人もろとも皆殺しにして、盗んだ金品を着服しているとんでもない男だった。

牙神は、月弥を中郷の元に送り込み、陰間の技で彼を篭絡させ、
そのたくらみをつぶそうとするのだが…。

好きな方は読んでみてください。
世界感が変わるかもしれませんよ。
posted by とたけけ at 09:15| 東京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 作家や〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年06月28日

江戸に遊ぶ11(高橋克彦『おこう紅絵暦』)


おこう紅絵暦 (文春文庫)

おこう紅絵暦 (文春文庫)

  • 作者: 高橋 克彦
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2006/03/10
  • メディア: 文庫




高橋克彦さんは「炎立つ」で有名になった


おこうは北町奉行所筆頭与力の妻、元は柳橋芸者ですが、もっと昔はばくれんと呼ばれた今でいうとヤンキーみたいな過去もある、情にもろくてきっぷも度胸もある女性です。
そのおこうが、嫁に優しい舅の左門と力をあわせ、江戸の巷を騒がせるさまざまな難事件に挑むというのが筋です。
この話、捕物帖としては少し異質な物語になります。

当時の武家の嫁がいかに窮屈な身分であったかを考えれば、自由に外に出て、ましてや犯罪を暴くなんてのは不可能に近い。
亭主の仙波一之進は融通の利かない頑固者で仕事人間。
ほとんど家にはいない有様です。

ここで重要なのが、舅の左門。
この人、年齢のせいで腰が悪いが、息子の嫁の鋭い勘を信じ、共に現場に出かけたりする。
他にも少し心もとないが、忠義な仙波の手下である菊弥、フットワークの軽い絵師の春朗(後の葛飾北斎)が絡んで、おこうを助ける。おこうが推理する探偵なら、この3人は実働部隊というわけだ。

全部で12編ある物語は、全て最初は普通の事件と思われたものが、おこうのふとした勘がきっかけで、思いもかけない裏側が見えてくると言う具合。さらに、ひとつの物語に登場した人間が別の物語には違う役割で登場するので、全体に深みが増しておもしろい。

中には少々ずるくないか?と思えるトリックもあるが、多くは心地よい裏切りです。それがどれかは、読んでみて下さい。

本書は『だましゑ歌麿』の姉妹篇との事。
この中に登場する春朗は、別な作品『春朗合わせ鏡』で主役を張ります。

高橋さんは、歴史物からSFまで広く作品を書かれている作家で、(江戸に遊ぶ)シリーズに入れるのはどうかと思ったのですが、他の作品を読んでないので、入れました。

何で読んでいなかったか?
実は、この前に図書館で借りた高橋さんの本が、何か超自然やらオカルトやらに関するもので、それもまともに信じているような感じだったので、読まなかったのが本当のところで、今回調べたらそういう人がいっぱい居るみたいですね。

同じ事は平井和正にも言えるんだけど。
posted by とたけけ at 11:55| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(1) | 作家た〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年06月26日

江戸に遊ぶ10(坂岡真『うぽっぽ同心十手綴り〜凍て雲』)


凍て雲―うぽっぽ同心十手綴り (徳間文庫)

凍て雲―うぽっぽ同心十手綴り (徳間文庫)

  • 作者: 坂岡 真
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2006/11
  • メディア: 文庫




作者は僕と同年代。

「うぽっぽ」とは暢気なうっかりものの意味だそうで。
ま、よくある「昼行灯」みたいな感じでしょうかね?
臨時廻り同心長尾勘兵衛は袖の下(ワイロ)を受け取らない、
手柄は他の仲間に譲っても平然としている。
同僚にも悪者にも小馬鹿にされる男だが、実は裏で南町奉行根岸肥前守から一目置かれる切れ者で、
時には法を破ってでも、正義を貫く硬骨漢でもある。

例え相手が、位が上の与力であっても、松江藩十八万六千石の大名であっても、火盗改であっても、関係ない。

個々のエピソードは、どれも味わい深いが、
この作品集の中では「つわぶきの里」が興味深い。
簡単に言うと、ある朝、自身番にみかん箱を抱えた男が現れる。
中には乳飲み子が眠っているところから物語が始まるのだが、
彼は元侍で、7年前にひょんな事から、女を巡る決闘に巻き込まれ、片方の侍の片腕を斬ってしまった。
彼に斬られた侍は、意識不明となってしまい、一方でその相手は逃げてしまたっため、申し開きのできなかった彼は、妻と娘を残して八丈島に島送りになってしまう。
その後赦免になり江戸に帰って来た男は過去を捨て、紙漉き職人として暮らし始める。
彼が斬った男は片腕となって侍をやめ、女とともに農民になり、
その決闘から逃げた男は、浪人となり土器を売って生計を立てていると言った具合。

人の幸せとは何だろう?と思わされる物語です。

この物語のラストは「どこかで見たような」風景で終わります。


ところで、この話の中でひっかかる表現がひとつ。
紙漉き職人となった平助こと坂崎平内と勘兵衛が、坂崎の妻子の待つ公事宿に向かう場面です。

「勘兵衛にも緊張が伝染り、うっかりすると右手と右足が同時にまえに出てしまいそうになった。」という一文。

たぶん、江戸時代の歩き方ってナンバといって手と足が一緒にでる歩き方だったような気がするんだけど。

ま、いーか。
posted by とたけけ at 00:00| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 作家さ〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年06月21日

ムッシュ・クラタ(山崎豊子)


ムッシュ・クラタ (新潮文庫)

ムッシュ・クラタ (新潮文庫)

  • 作者: 山崎 豊子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1993/08
  • メディア: 文庫




山崎豊子と言えば…華麗なる一族(キムタクでドラマ化)、大地の子(NHKでドラマ化)、不毛地帯(ドラマ化予定)、二つの祖国(NHKでドラマ化)などなど…長い作品が多く、ドラマで見てしまうと原作を読む気がしなくなると言う訳でもないんだけど、長い作品(分冊化したもの)は、まともに読んだ記憶がない。

この作品集「ムッシュ・クラタ」は、読みやすい短編集であり、解説によれば、山崎豊子さんのほかの作品とは毛色が違うものだそうです。

表題作はフランスを恋人のように愛した一新聞記者の生涯をさまざまな人の証言を組み合わせて浮き上がらせていくというもの。
鼻持ちならないフランスかぶれのオトコから、気骨あるダンディの一面まで積み重なるように浮き上がってくる。

まあ、考えてみれば、文学で書かれる人間像だって、どこか作者の意図をもって切り取られた一面でしかないわけで、最後の最後になって「ふうっ」と軽いため息がでるような作品と言えばいいんですかね?

この他の「晴着」「へんねし」「醜男」といった、この作者にしてみれば短い作品でも、凝縮したような人生がページから飛び出してくるようで、それぞれ興味深かった。

中でも「醜男」は切ない…。

もったいないくらいの美人の嫁さんをもらったことが自慢だった醜男の万年係長が、定年間近になって「目覚めた」嫁に逃げられ、振り回され、たまに来る無心の手紙に嬉々として応じて復縁を迫ってすがり付き、捨てられて(悲しいったらありゃしない)ようやく自分を好いてくれる女に巡り合って立ち直りかけたが、今度は病気になり、死ぬ間際に口に出したのは逃げた前妻の名前。(看取った女にしてみればいいツラの皮だよな)
その前妻からは「最後の」無心の便りが届いていたわけで。
看取った後妻には何も残すことができなかった男…情けなく悲しい人生である。

この他にも、
「晴着」の主人公の(何もいい事がないような)人生も切ない。

「へんねし」では旦那の浮気に耐える一見いい女の裏に隠れた怖さを最後の最後にドーンと見ることになる。

この種の作品もいいよな…。
posted by とたけけ at 07:14| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 作家や〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年06月17日

江戸に遊ぶ9(新宮正春『陰の絵図』)


陰の絵図〈上〉

陰の絵図〈上〉

  • 作者: 新宮 正春
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1990/03
  • メディア: 単行本




陰の絵図〈下〉

陰の絵図〈下〉

  • 作者: 新宮 正春
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1990/03
  • メディア: 単行本




新宮正春さんと言うと、元巨人番の記者の方で、作品でもスポーツ関係の方が有名だったと思ってた。
でも調べてみたら、時代小説もたくさん書いてるんですね。
この物語は、徳川家康の重臣で、天領の総代官や佐渡金山などの奉行として徳川幕府の財政基礎構築に多大な功績を残しながら、死後不正蓄財のかどで遺児7人が処刑され、他にも多くの大名旗本が連座する大事件に発展した大久保石見守長安の残したと思われる遺金をめぐり、繰り広げられるスケールの大きな物語です…と言うのが大体の筋。

時は三代将軍家光の代、日光東照宮の造営のための経費、島原の乱の戦費等で幕府の財政は逼迫していた。
そこで、浮かび上がったのが長安がどこかに隠したと思われる五百万両とも言われる遺金だった。
その場所は、彼が子孫に残した青龍、朱雀、白虎、玄武の四振りの銘刀のなかごに刻まれた文字に隠されていると言う。

いち早く、それに気付いたのが「知恵伊豆」とも言われた松平伊豆守信綱、家光の側近で幕府の回国者(隠密)を動かす中根壱岐守正盛、その甥にあたり、今は姿をくらました元伊賀組同心頭の服部小半蔵と言った面々、それに、同じく遺金に気付いた、北条早雲の血筋を引く頭領、奇平次に率いられた風の党という忍びの軍団や、長安の遺児藤次郎、さらには紀州大納言頼宣の落とし胤の龍之助や彼を守りながら幕府に謀反を考える軍学者由比正雪や、龍之助を守る役目である元紀州の鯨撮りだった風伝の源太が関わる。
さらに、長安の一族に恨みを持つ忍びであるましらの仙蔵などが絡んで話の背景にある怨念や人間関係がどんどん入り組んでくる。

最後には春日の局や現将軍家光にかかる天下を揺るがす秘密だとか…。

話はどんどん大きくなってくる。

暗号解読の楽しみ、黄金捜しという冒険活劇、奇平次の娘である18才の鈴音と源太の淡い恋愛感情。仙蔵と源太との死闘の行方…

ここで、全てを説明するのは不可能ですね。

そうそう、タイトルにある「影の絵図」は最後の最後にわかりますよ。

一言で言ってしまえば、
人間の欲望のむなしさ。
これが感想かな。
posted by とたけけ at 10:24| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 作家さ〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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